kira 第十四幕  双子の流星は、星宿を終焉に導く

 ――そうして、別れの時は訪れる。
 あのあと煌たちに見つかりねちねち文句を言われ、フェッシルさんからは絶対零度の視線を浴びたけど、私なりの別れの挨拶はできたから満足していた。
 城の地下にはいかにも儀式を行ないます! みたいな広い部屋があって、私たちは中央に描かれた魔法陣の上に立つ。
 王子様たちの名残惜しそうな視線もなんのその、煌は煌は鈍い金色(こんじき)のポニーテールを翻し、意気揚々と笑う。

「じゃあ、今まで世話になったね!」

 その表情は明るく、肌なんかつやっつやしている。あからさまだなぁと思っていると、あの煌によく似た青年が呆れた口調で言った。

「うわぁ、そこまでせいせいした! って主張されるといっそ潔いよなぁ。さすがの俺もびっくりしたよ」
「こっちは無理やり召喚させられた挙句、嫌々君たちに協力させられていたんだから当然だろう? まあギブアンドテイクだったから損はないけどね」
「煌、建前でもいいから別れを惜しんであげた方がいいと思うんだけど……というか損がなかったなら文句を言うのはやめなさいよ」
「やーなこった」

 浮かれた語尾で、にこやかに言い切られる。
 私はもう頭を抱えるどころの心境じゃなかった。姉として謝るべきなのか、他人のふりをすべきなのか。
 誰よ、こんな性格に育てあげたのは! 親の顔を見てみたいわ! って、私の親でもあるんだった……はは……。
 たそがれた気分に浸っている間に儀式は進行していく。
 これまで微笑ましげに目を眇めていた王子様が進み出て、私たちに一礼する。

「キラ殿、ユウ殿、世話をかけた。このようなことを二度と起こさないよう、肝に銘じて執政を執っていくつもりでいる。……もう二度と道は交わらないだろう。それでもまた出逢う日を祈り、あえてまた逢おうと言わせてもらいたい」
「やーなこ――いったぁい! 夕、なにすんのさ!」
「王子様がいいこと言ってんのに、なに空気をぶち壊すようなことを言おうとしてるの! 私がなにしてんのって言いたいわよ!」

 また後頭部をぶっ叩くと、即座に抗議された。でも自業自得だと思うのよね、こんな場面でもマイペースを貫くってどうなの。
 王子様は苦笑するだけだったけど、その後ろに控えている騎士様はムカついたらしい。これもまあ当然だわ。

「貴様は最後の最後まで不遜なヤツだな! 殿下にここまで言われて感銘を受けないなど、信じられない!」
「私を安上がりな君と一緒にしないでもらいたいね」
「な、なんだとぉ!?」
「キアラン、よせ。最後の時くらい仲よくしてくれ」
「ぐっ……く、くそぅ。殿下のご慈悲によく感謝するんだな! ふ、ふん。まあどうしてもまた来たいって言うなら? 歓待してやらないこともないがな! せいぜいのんきに暮らせよ!」
「だからもう来たくないって言っているんだけど、君って耳も悪いの?」

 …………………………………………。
 私はもう、煌の保護者役を放棄した。こんな次々爆弾を落とされたらやってらんないわ。
 だから四人のやり取りを視界から排除すると、他の魔法使いの人たちと一緒に詠唱に入っているネルウァさんが目に飛びこんでくる。
 この部屋に入ってからというもの、ネルウァさんは一度も私を見なかった。ずっと伏し目がちで、それが自分勝手にも寂しく思えた。でも、ネルウァさんに伝えたいことは全部言ったと思うから後悔していない。
 そのさらに後方には、むくれ顔のフェッシルさんが壁に寄りかかっている。右目にかけたモノクルを逆光させ、腕を組んだまま直立不動だ。
 私は立場が立場だし、気軽に二人に声をかけることはできずにいた。代わりにその姿、風景を目に焼きつけておく。
 ……大丈夫。私は変われる。変わろうと思う気持ちがある限り、きっと何度でも生き直せる。
 その時、巨大な魔法陣が光を放ち始めた。月明かりに似た、温かな光だ。聞こえてくるなにかの呪文は読経のようにしか聞こえないけど、だんだんと強まっていく。同時に体がどこかに引っ張られるような、そんな引力を感じる。
 だんだんと視界は眩んでいく。ああ、もうすぐ私はこの世界から去るのだ。星と同じくらい、人も優しく輝いていた世界から。
 そう思うと腹の底がむずむずしてきて、ネルウァさんとフェッシルさんを見つめた。二人はこの異世界で関わりが深かった人間だ。
 ……最後にもう一度伝えておきたい。

「ネルウァさん、フェッシルさん!」

 大きな声を出して名前を呼ぶと、二人は弾かれたように私を凝視した。儀式の途中のネルウァさんの口は絶えず動いていて申し訳ないけど、今しかない。
 私は今できる精一杯の笑顔を作る。ぶさいくな顔になっているかもしれないけど、心をこめて叫んだ。

「ありがとう、さようなら!」

 私に自信を与えてくれた、素敵な世界。いつしかフェッシルさんは醜いと言っていたけど、やっぱり私にとってはどこまでも綺麗だった。


To be continued...


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