嘘をあやつるダイスキナキミヘ
キャンドルの灯りが強弱を行ったり来たり。ほんのり暗闇に浮遊する凌の肌が、わたしの目をとらえる。甘ったるい時間に酔って、自分達に酔って。眼科で凌は温度に酔って、くれない。
「暖房消してやるの勘弁してくれないかなホント」
無粋だ。せっかくの、年に数ヶ月の冷気。そのもとで寒さと快感に声を殺し身を捩る姿の、いかに美しいか。ちなみに、夏はだいたいクーラーつける。暑いから。たまに、どちらかの家が無人になるチャンスがあると、あえて汗をかきまくってからふたりでお風呂に入ることはある。
じっくり、これでもかというほど時間をかけて。馬乗りになりながら、一枚一枚丁寧に剥いでいった。特にタイツから脚が覗く瞬間がこのうえなく好きなので、いつもラストに持っていく。
制服のスカートを脱がしてから(律儀にも、脇に畳んでおいておく)、腰を浮かしそっと凌に被さった。上半身裸にタイツという格好、ちょっとエロくてのこりは滑稽だ。
ポニーテールを自分でほどく。ロングヘアーの毛先が触れるのが、くすぐったくて優しくて好きだと前に言ってたから。鎖骨を舌でなぞって、手は胸のまわりを円形に移動させた。柔らかくて、気持ちよくて、なんか逆にいやらしくないなあと思う、いつも。
「……っは」
呼吸のリズムが揺さぶられ、わたしは俄然やる気になった。静寂の間に凌の息が、耳から脊髄へ響いてく。いい感じに頭がぼーっとしてきた。
脇腹を軽く指で掃くと、凌は僅かに口角を上げ目をギュッと瞑る。喉を堪忍が通ってく。こらえる必要なんて、ないのに。
「声出しなよぉ」
垂れた語尾。
脳髄にがんがん訴えるのは、途切れ途切れになる喘ぎ。腰の辺りがせつなくなる。
「かわいい」
「やだ。かわいくない」
膝で止まっていたタイツをいっきに下げ、放り投げて膝の裏を舐めた。腰がびくんと跳ねる。凌の弱いとこ。中学のころ授業中後ろの席からふざけて弄ると、突っ伏して本気で我慢してて面白かった。次の休み時間、本気で怒られて面白かった。
膝から内腿にまわり、ゆっくりと上に舌を這わせていく。吐息をはき掛けながら。凌が声をごまかそうと咳をするときの顔が、素敵。
「あっ……は」
いちど大きいよがりが漏れたと思ったら、もう諦めたのかそこからは容赦ない呼気が続いた。
ふっと息を吹き掛ける。粘膜が呼応してくれる。熱と湿度を持っている。
目を逸らした。
「なにこれ」
「野暮な問いだぁ」
中学時代の級友、柳沢朋波はきれいなフォーマットでそれがプリントされたコピー用紙を、あたしが握っている2枚をかるく人差し指で弾き大笑いした。
初めて味わう気持ち悪さが、血管に入り込む。
「現国の課題なんだ」
悔しいことに、あたしは虚構の中の彼女に惹かれていた。悔しいことに。
「あなたの彼女は国語的センスが皆無だから、ゴーストライターを頼まれたのですよ」
「死ねよおまえ」
「私は本田にばりぞーごん吐かれたって痛くもなんともないけど、ぜんぶ早苗ちゃんに筒抜けだよ」
だからどうだ、と。言わないのが狡い。
用はこれだけ、と朋波、もとい早苗の刺客は立ち上がる。引き留めようかとも思った。断念した。残されたのは領収書。あとで早苗に請求しよう。見返りとしては易すぎる。
もう一度頭から目を通した。上手いとか下手とかはわからないけど、突き抜けていることはわかる。どきどきする。早苗が、かわいい。どこまで創作で、どこまでリアルなのかな(毛先のくだりは、事実)。固唾をのんで、喫茶店の机にひとり俯いた。芯からじわじわとおかされてくのを感じた。早苗の指先に。間接技の巧すぎるあなたに。こんなにも澄んだ、真冬に見下ろされた。セックスしたい。
[10/01/15]
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