My Fair Lady, Falling Down
おでこに熱。口元には、やわらかい掌が添えられている。
「ご、ごめんね」
伏し目がちに。
「べつに怠けてたわけじゃないの。ただ私化学物質とか敏感な体質じゃない? 大概が逆効果になっちゃうのよ。毎月ナプキンでかぶれちゃうし。これはもう親譲りだからどうしようもなくて。いろいろ模索して試そうかとも思ったけど、時間も手間もかかるから。無駄は嫌いだし。それになにより私自己中な人間なんだ。凌が一番わかってると思うけど? たとえ恋人のためでも、自分の楽が優先なんですよ。いや決して大切にしてないとかじゃないからね! ともかく凌をないがしろにした結果の状態ってことを理解していただきたくて、うん」
こんな、近くにいながら。早苗の言葉はするすると抜けていく。だって目の前の、いじらしい瞳。あたしの息で湿ってく肌。
「冬場はもう季節的にもしょうがないので、文句とか言われても」
「あのさあ!」
手をはらいのけ、肩をぐっとつかんだ。早苗は唾をのんで顔を上げる。大差ない身長。世界がせまい。
早苗は早苗だ。
「そんなのどうでもいいからキスさせて」
ささくれが沢山でも、唇が荒れてても。
「……はい」
真っ赤になって、首を縦に。彼女の恥じらうポイントは謎だ。
「好きなだけどうぞ」
こんな台詞も真顔で言えちゃうし。
「じゃ遠慮なく」
指先を肩から耳に移動させる。あたしは冷え症だから、早苗の首筋に鳥肌が立った。妙景だ。
「凌、こわい顔……ってゆーか必死な顔」
あたしはかっこわるい。
ふわっと、率直に触れた。言われた通り、思う存分甘味を味わった。ここ数年、あたしは幸せだ。幸せがあたりまえになっちゃうくらい幸せだ。恐ろしいと思う。
幸せ? ずっと? どんな奇跡だろう。あたしが持ってて、いいのか。
冷たかった体の末端が、どんどん熱を孕んでいく。襟を掴む早苗の拳が、固く固く。背中の温度は垂線を描き。落とされた睫毛は眼前で震え。インスタントの闇のなか、舌に沿わせられたざらつきが、疼き。
真下でたぎる恒常の熱林に向かった。
[10/01/14]
前
□
次