朝焼けに魅せかえす
目覚めてはじめて自分が眠っていたことに気づく。いつもとはちがう布団の匂い。そのなかでしばらくまどろんでから、たいへんな事実に思い至った。
思わず飛び起きるとひなたはとなりで分厚い本を手に目を丸くしている。昨日図書館で借りたその本のページはもう五分の四あたりまで繰られていた。
「おはよ。早起きだね」
「いまなんじ?」
こんなときでも「勝手にシンドバッド」が流れ出す私の脳はどうかしている。六時前、とひなたは答えて本を閉じた。「エンブリオ」って、まったく内容が想像できない。いや、そんなことはどうだっていい。
「なんで……なんで私寝てたの?」
「ええ?」とひなたは眉間に皺を寄せた。「なんでって聞かれても。眠かったから寝たんじゃ」
「そういう意味じゃない!」
怒鳴った瞬間、ぼんやりと昨夜の光景がよみがえる。四年ぶりのお泊まり、床に敷かれた布団を無視してひなたのベッドに潜り込んだ。緊張なのか照れなのか私の意図から活字の世界に逃げ込もうとするひなたに散々ちょっかいを出して、ようやくこちらを向いてくれたのが11時ごろ。それからふたりで毛布の下、なにをするともなしにくっつきあって――そのあとの記憶がない。
「ばかだ私!」
いくら昼の大掃除で東奔西走して疲れていたからって。あのタイミングで寝るなんて、古い少女漫画じゃないんだから、ママレード・ボーイじゃないんだから。
「それにひなたもっ」
「あたし?」
「私が寝てる間になにかした?」
なにかって。ひなたは赤面して声を張り上げる。窓の外はまだ暗かった。
「できるわけないじゃん」
「い、いくじなし!」
「なんだよ失礼だな!」
反論できないくせに、といいかけたところでひなたの手が入る。唐突に頬の上をすべりはじめた指先に戸惑っていると、高圧的な声がなのにやわらかく響いてきた。
「今からするか、じゃあ」
「……あ」
ほんとうは。すこしだけこわかったのだ。未知をこばむその恐怖が私を眠りにいざなったことも、いままで決して微細でない安堵があったことも事実。
「寝らんなかったんだあたしは。横でつぐみが寝息たててたから」
それと、とひなたは付け加える。なにもしなかったってのは嘘。
「やっぱり。変態」
「どっちならいいんだよおまえは」
だって、と漏らしたのがひなたには聞こえただろうか。
「あったかい」
かかる息がどちらのものか、わからなくなる。数時間後に交わすであろう二回目の「おはよう」を想像しながら、ほの暗い暁のもとまぶしさに目を伏せた。
[08/12/20]
前
□
次