拉致せよ三月


 白い光の中に、山なみは萌えて。卒業式の定番曲「旅立ちの日に」冒頭の歌詞を、わたしはどうしてもうまくイメージすることができない。まず「白い光」に実感が湧かないし、「萌え」るというのがわからなくて辞書を引いたらますますこんがらがった。「山なみ」に至っては林間学校とテレビの中でしか見たことがない。
 そんなわけでわたしはこの曲を歌うとき、なんだか重要な部分をはぐらかされているような釈然としない気分になる。


 明日の卒業式の準備をするので、五年生は体育館に集まってください。校内放送は同じ階にいたわたしたち六年生の耳にも入った。なによりこういう些細なことが六年という歳月を感じさせる。
「やのちゃん、明日の打ち上げの場所決まったよ」
「あ、ほんと?」
「うん。みんなの意見一致して駅前の和食屋」
「わかった。楽しみにしてるね」
「さみしいけど。……それじゃあたし帰るね」
 じゃあねと手を振ると泣けるほどの笑顔が返ってきた。ぱたぱたと軽快な靴音が、夕日の滲む廊下に広がる。そこかしこにきらきら反射する光がみえた。頭の中では「みんな」という響きが渦巻いている。


 ごめんね、わたし、六年かけても独占欲を捨てきることができなかった。


[08/03/??]
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