友の行方
十行に渡る文章題を見てげんなりとした。まず読んで意味を頭に叩き込むのが億劫でたまらない。飛ばして次の問題に取り掛かってもいいのだけど、いかんせん私は負けず嫌いの上変に真面目なたちなのでそうすることは自分で許せない。気合いを入れなおしてドリルに目を走らせた。
「山岸ちょっと」
そんな私のやる気をいきなり挫けさせたのがこの先生の一声。目で返事をすると同時に呼ばれた理由についても考えたけど特に思い当たることはなかった。
「そこの二人知らないか」
そこ、と示された私の前の席の主は里崎とつぐみちゃんだ。そういえば見ていないなと記憶を辿りながら否定の返事をすると先生はうーんとうなって私にこう言い付けた。
「じゃあ悪いが山岸、保健室とか見てきてくれ」
はいと頷いて立ち上がる。保健室とかの「とか」ってなんですかという質問は私の信条、「基本は愛想よく」によって押し留められた。
あの二人とは知り合って一年半になる。第一印象は「恐ろしく仲がよい」でいまだに変わっていない。いやあの頃よりもその印象が強い点変わったといえるのかもしれないが。
ともかくあの二人の仲良しぶりは親友の範疇を超越している。と、思う。揃って授業をサボったり連れ立ってトイレに行ったりはまだ理解できるとして、膝枕とか林間学校の夜にほぼ密着状態で寝たりとか友達同士でなかなかすることじゃない。もっともそのあらかたはつぐみちゃんが一方的にやっていることだが。
保健室は素通りしておいた。先生もそのために私を使わせたわけじゃない。屋上か前庭、サボリの定番といえばその二箇所のどちらかだ。私は友人としての勘を働かせて屋上へと続く唯一の階段を上った。あの二人はわりと少女趣味なところがある。
はたして勘は的中だ。重い扉を開けると屋上の隅に座り込んでなにか話している二人の姿が目に入った。私は歩き出そうとし、慌てて咄嗟に足を止めた。二人の間を流れる雰囲気がなんとなく今までとは異質に見えたからだ。
よく耳をそばだて目を凝らす。気付かれるかもしれないとひやひやして自然と呼吸も小さくなった。幸運にもというべきか生憎というべきかは測りかねるけど、私は十四年間視力検査はオールAの上授業中教室のどこかでシャープペンの芯の落ちる音を聞き取れる耳の持ち主だ。ここへきて一分も経たないうちに次のような事実を浮かび上がらせることができた。
一、二人は好きあっている。二、時代がかった言い回しをすると二人は「A」まで進展している。三、つぐみちゃんは上記の二項目を私にのみ報告するつもりでいる。
(……ちょっと待った)
難解な図形の問題が物凄く恋しくなった私は、早足で立ち去り教室に妙な気分を持ち帰った。
[08/04/19]
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