優柔不断は直らない(after)Silence Gives Consent /after
生徒会質を閉め出され廊下をうろついていると、誰かの「あ」という驚きの混じった声が背中越しに聞こえてきた。
「嘉歩ちゃん」
振り返るとクラスメイトの女子三人は焦ったように顔を見合わせた。
「どうしたの?」
ちょっと話が、と連れて来られたのは屋上への入り口である扉の前。私、なにかやらかしたんだろうか。
「榎本さんって」と彼女は声をひそめた。「もしかして嘉歩ちゃんのこと好きなの?」
「え、なんで」わかったの、という言葉が喉まで出かかり、慌てて押し留める。「なんでそう思うの」
「ほらこの間の前川の事件。あれ、前川が嘉歩ちゃんの写真持ってて……って話した直後だったじゃない」
「ああ、そういえば」と私はあくまでも知らない振りで通した。
「それに」ともう一人が口を挟む。「きのう体育で嘉歩ちゃんが倒れたときの榎本さん、すごかったんだよ。血相変えてひとりで保健室行っちゃうしさ。対応のすばやさに先生すら唖然としてたもん」
「ね、ほんとのところどうなの?」
興味津々な瞳が6つ。こみ上げてくる欲求をぐっと抑えて私は言った。
「わかんないよそんなの。巴月に直接聞いてみたら?」
この時点でも私の答えは「否定」ではないのだけど、幸いそこは突っ込まれずにすんだ。
「だって榎本さん答えてくれなさそうだから。いや、いいひとだし嫌いってわけじゃ全然ないんだけどね」と取り繕いながら彼女は顔の前で大きく両手を振り、続ける。「……あのひと時々なに考えてるかわかんないんだもん」
「私のことじゃない?」
思わず口にしてしまった一言に、その場の空気が凍りつく。次の瞬間、三人は何事か叫んで走り去っていった。やらかしてしまった。
「――っていうことがありました」
嘉歩は終始しれっとした態度で説明し終えるとあたしのタンスの引出しを開けた。とたんに後悔に襲われる。嘉歩に生徒会室から出るよう命じたのはこのあたしなのだ。
「私のことじゃない、って。言うかよふつう」
「でも」と嘉歩は目を伏せる。「……ウソは言ってないもん」
反論できないので沈黙するしかない。嘉歩はにこついて「ね?」と追い討ちをかけてきた。
「ノーコメント」
「つれないなあ」
窓からの柔らかい風が首筋を撫ぜていく。嘉歩の後れ毛がなびくのを見てなんともやるせない気分になった。
「あ」とタンスを覗き込んだ嘉歩が声を上げる。「この服新しいね」
「……勝手知ったるひとの家、ってところか」
「不満? 家だけじゃないけど」
「……」
気を許されているのは嬉しい。でも、手を出す気はないけど一抹の危機感も持たれていないのは、悔しい。ジレンマからカタルシスを得ることができるくらい大人なら、なにか違っていたんだろうか。
「嘉歩さあ」
「なーに?」
「あー、いや、なんでもない」
飲み込んだ言葉は、墓場まで持っていく。そう決意はしたけど。
「……」
嘉歩の無言の圧力には、たぶん一生敵わない。
[08/07/13]
前
□