わたしはしょうらいも


「あなたの子供の頃の将来の夢はなんでしたか?」
 私がその文字列を読み上げるとひなたはきょとんとして首を傾げた。なにそれ、と目が尋ねている。
「進路学習のプリント。ひなたももらってるはずだけど」
「ああ」
「で、なんでしたか?」
「人に聞くなよ」
「……ノリ悪いなあ」
 ムカッときて言うとひなたも同時に色をなした。ひどく生産性のないやりとり。今にして思えば非は私のほうにあったのだけど。
「だってひなたのそういう話聞いたことないもん」
 場を取り繕うようにつとめて明るく、微量ながら拗ねも加えて発言する。しかしますます怒ったらしいひなたは無言になってしまった。
「教えたよ、思いっきり」
 ただひとことだけ残して。


 あまり長い沈黙には耐えられない。長針が30度動いたところで腰を上げ台所に紅茶を入れにいった。ひなたの好きなティーバッグの種類もスライスレモンを必ず入れることも角砂糖を使わないことも、私は知っている。だけど求める理想や身を休めたい場所の想像すらつかないのだ。
 ティーカップの中身をこぼさないように注意して階段を上る。左手でお盆を支えながら右手を部屋のドアノブに向かわせて、途中ではっと息を呑んだ。
 わずかな隙間から薄暗い二階の廊下に漏れる光の中、ひなたが私のベッドの上の枕を腕に抱いている。まるでキスでもするかのように優しく引き寄せて。
 私は立ち尽くし、唾を飲み込む音が伝わりやしないかとひやひやしていた。不思議と嫌な感じは受けない。それどころか私はひなたのきれいな姿にみとれていたのだ。
 ゆっくりと深呼吸をして瞼を閉じる。侵してはならない美しい光景を、闇がさらっていった。どきどきと心臓の鼓動が激しさを増す。
 思い出したよ、貴女の夢のありか。


[08/08/??]
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