真昼の月とあなたの手(extra2)
うつくしいあなたへ /ex2


 私はずっと電気椅子の上にいます。
 重ね重ねた罪悪はあしもとをぬかるみに変える。頭上の大空はどんより暗く、目の前の一帯だけが寂しげな光を放っていた。
「痛っ」
 言うが早いか巴月は人差し指を口許に持っていく。だだだだだだっ、と鳴り続けていたミシンの振動が途切れた。私はちょっと離れた木製の椅子に腰掛ける見学人。
「絆創膏いる?」
 カーディガンのポケットを探りつつ問い掛けると巴月は無言のまま首を縦に振った。ギンガムチェックの包装を剥がしながら立ち上がり巴月に向かって手を差しのべる。
「指貸して」
「自分で貼るよ。ありがと」
「……」
 か・し・て、と無言の圧力。はたして差し出された指に貼りつく躊躇と焦燥を、ゆっくりとなぞってからピンクの絆創膏を巻き付けた。ガーゼに赤が染みていく。巴月は唇を噛んで肩を引いたけど。
「……ありがとう。放して」
 私は放すどころか握力を強めた。熱を帯びる右手とかりそめに冷めていく彼女の瞳。もっともそれは偽りだけど――
「放せ」
 振り払われた。
 どうして。自問する。わからない。自答する。追い付けない。追い付いていけてない!
 宙ぶらりんだった椅子の電気コードが動き出した。巴月は自分の末端にできた応急処置をほんのすこしいとおしげに掲げ、布を取りエプロン縫製の仕事に戻る。
「巴月」
「ん?」
 相変わらずの語らぬ瞳が、だけど雄弁に。私の前科を許容していた。しすぎていた。
「ごめん」
 べつにいいよ、と浮かべた笑みはもう元通り誤魔化しに染まっていてほっとする。それでも不穏な気配は拭い去れなくて、俯いていると巴月の上履きが正面から視界に入ってきた。
「やっぱよくない」
「え」
「詫びてくれる?」
 どうやって、はその思惑に吸い込まれていく。顎にあたった硬さはさっき私が手にしていた絆創膏。
「……ん」
 みがまえていたのにただ一瞬。必死な唇は余韻すら残しあっけなく去っていった。
 真っ赤な耳が後ろ姿から見えかくれしている。先生よんでくる、という声と同時にドアが閉められた。
 コードは自らコンセントを切り落としてしまったらしい。私はずっと電気椅子に縛り付けられている。怖いぐらい落ち着きはらって、けっしてボタンが押されないことを知っている。


[09/10/09]
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