真昼の月とあなたの手(3)
Time & Tide Wait for None /3
緑の包装紙しかなかった。
女の子たちが赤やらピンクやらかわいらしい色の包みを手にしている中、あたしは無性に恥ずかしくなったものだ。
通いなれた家の入りなれた部屋が、たくさんの鮮やかな飾りで彩られてゆく。周りの子たちがはしゃぐのと反比例するように居心地の悪さと嫉妬が募っていった。
その日の主役が奥からひょこっと顔を出す。サーモンピンクのワンピースとオレンジのリボンを身につけた嘉穂は、満面の笑みをたたえてその場でくるりと一回転してみせた。
彼女の幸せや喜びを共有する以上に
拍手が起こり、歓声が沸いた。空気が溜まってワンピースの裾がふわりと広がったのをよく覚えている。
巴月は部屋の隅で一人不機嫌そうに立っていた。私はそこまで歩いていって、見下ろせるくらい小さかった巴月の頭を軽く撫ぜる。すると巴月は不意に気色ばんで、二ヶ月間だけひとつ年上になる私の右手を払いのけた。
あの仕草と、笑いそうな泣きそうな複雑な表情が忘れられない。
なんと声を掛けようか迷っているうちにタイミングを失ってしまった。
彼女の苦しみが、自分の痛みでありますように
巴月ちゃん今日怒ってるの? と問われあたしは慌てて五歳児なりの必死の演技で、ううんそんなことない、と首を振った。嘉穂はその様子を横目に、六歳児なりの喜びに浸っていたのかもしれない。
誕生日も、身長も、さらにはかけっこの順位や幼稚園での工作、ものを食べたり制服に着替える早さ、そういった瑣末なものも含めすべてにおいて、あたしは常に嘉穂の一歩後ろにいた。
遠すぎて視界に映らないなら悲嘆する必要もない。目の前に背中が見えているのに、追いついてその存在を確認することができなかったあのころの漠然とした怖さや不安。それらは呼吸も伝わるほど至近距離にいながら目を逸らされている今の辛さと、とてもよく似ている。
そして願わくは、いつまでもとなりでみつめあえることを
みんなは変な顔をしたけど、私が目配せして不満は漏らさせなかった。ホールのショートケーキの上で揺れるラスト一本のロウソクの炎は、嬉しそうに顔を綻ばせる巴月によってゆるやかに吹き消された。
ひとりのひとに心酔することは、周囲とのつながりを断ち切ってしまいかねない。巴月が深緑の包装紙で包まれたプレゼントを私に向かって差し出したとき、その箱の色地味だね、と誰かが呟いた。巴月本人はつとめて明るくその場の空気を修復しようとしていたのに、私はムキになって叫んでしまう。そんなことない巴月のがいちばんかわいいんだから。私緑色ってだいすきだもん。
今ならそんな不器用なまねは絶対にしない。でも幼かったあの日の言葉は、心の奥底から湧いたまぎれもない本音。巴月はあのときも、自分の思いを弄されていると思ったのだろうか。
一秒でも一瞬でもいい、可能な限り、傍で長く。
[08/08/01]
前
□
次