真昼の月とあなたの手(1)Gather Roses /1
「あ、榎本先輩だ」
ひそめたような声の方向に視線を流すと、一年生の男子二人と目が合った。彼らは興味深げな、そして同時にばつの悪そうな顔をして、互いに目配せしあってから私たちに背を向けた。
「有名ね、『榎本先輩』」
茶化すと巴月はうんざりといった表情で「誰かさんのおかげでな」と言い捨てる。その言葉とは裏腹にどこか嬉しそうでもあった。
私が巴月に思いを寄せられているという事実を、間接的にではあるけど漏らしてしまったクラスメイトたちはかなり噂好きで口の軽い連中だったらしい。見ず知らずの後輩にまで知れ渡っているのがその証拠。おかげで二人でいるときに指差されたり遠巻きに話の種にされることがたまにある。もっとも私は全然気にしていないのだけど(巴月はどうだかわからない)。
「私、男子に憎まれてるかもね、巴月美人だし」
ほんとうにそうなら、願ってもないことだ。
他人の目が気にならないといえば嘘になる。が、どうでもいい思いのほうが大きいのも決して嘘じゃない。一番正しく言うと、他人のことを気にするほどの余裕がない。
「ね、今度の土曜日ひま?」
「うん」と答えたあとで用事がなかったか確認する。「ひまだけど?」
「じゃあさ」と嘉歩はいたずらっぽく微笑んだ。「うち来ない? 一泊二日で」
「なに、誘ってんの?」
「お泊まりに、ね」
相変わらず、意図が読めない。もうあたしを追い込むような発言はしないんじゃなかったのか。眉根を寄せて黙っていると嘉歩はいつもの口調に戻って言った。
「まじな話、その日うち夜中まで誰もいないんだ。だから遊べたら楽しいかなと思って」
「……それのどこが『まじな話』だよ」
自分から襲われますって宣言してるようなもんだぞ、という一言は心の中でのみ付け加える。
「無理にとは言わないよ。気乗りしない?」
うん、と答えてしまえば精神の平安は保てるはずだ。なのにあたしの口をついて出たのは真っ向からの肯定だった。
「行かせてもらうよ。楽しみにしてる」
お返しに「こちらこそ」と笑顔つきで頂いた。
[08/07/27]
□
次