出て行く時 /14
もーたすけてほんと、と游はわたしの鎖骨に額をあてた。
「!」
「あぁ緊張する……」
両手が肩をつかむ。自分のじゃない吐息が首を掠めていく。髪の匂いに、指のつめたさに、あたたかさに。だめ、こういうの。だめ!
あわてて、キョドって、游を両手でつきとばしてしまった。遊のからだが地面へ向かっていく。
――いけない!
瞬間、脳から指令がくだる。わたしの腕はそれに従って、游に伸びた。しゃがみこんでぎゅっとしがみついて。
「なっ、なに!」
頬に睫毛が触れるくらい、厚着越しの下着の感触がつたわるくらい。放課後の廊下でわたしは別世界にいた。
「なにがしたいのおまえ」
「……游はいつもそうやって、そうやって」
「はあ?」
「いきなり間合いつめてこられたらびっくりするじゃない!」
游はきょとんとして、え、と声を漏らす。それから意地悪な笑みになった。
「公園でいきなりキスしてきたのはどこの大塚さんだったかなー」
「そっ、そんなこといま言わなくたって!」
心臓が飛び出しそう、ってきっとこういう状態を言うんだろう。だけどさいわいまわりには誰もいなかった。
「最初の積極性はどこにいったんだか」
くやしいくやしいくやしい! 顔が熱くなるのを感じながら身を起こす。ゆっくりと消えていくぬくみ。座ったまま悠々とわたしを見上げる游にひとこと。
「……大丈夫だよ游なら、ぜったい」
「それはどうもありがとう。絶対かー」
「わたしがちゃんと受け止めんだから」
半分冗談で、半分の本気を全面に押し出して言った。游はいちいち愉快そうに瞳の色を変えていく。
「だからいちどは突き飛ばしておきながら支えたってわけ?」
「そうよ」
夢は叶えたいでしょう。
「ありがとう。頑張ってくるよ」
「うん、応援してるからね」
「なんか」目を細めて。「絶対大丈夫って気になってきた」
たとえその未来の焦点がわたし以外に当てられていても、薄暗い欲をとどめて意識はあなたの幸せを願っているから。
「じゃあ、あさって」
「うん、ばいばい」
別れ際に手を握った。わたしのそれからははみ出してしまうしなやかで長い。游がキスを求めてきたら笑顔で応じよう、と思ったのだけどけっきょくそんなことにはならずに。
「じゃあね」
「ばいばい」
二度目のやりとりのあと、游は一秒後の空気に溶けていくのだ。
[09/02/08]
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