the Virgin Snow /12
この寒いのによくやるなあ、とまず思った。次の瞬間ちいさな悲鳴が聞こえて憧子さんをふりかえり、それが自分のものであったことに気づく。団地の歩道を照らす街灯が憎らしかった。
「行こ、冴莉」
憧子さんが早口に言い袖をつかむ。だけどわたしも憧子さんも足をうごかすことはできなかった。恐怖からが9割、残りの1割は好奇心から。
「どこの中学生?」
ざっ、と初雪を踏みにじって男が一歩こちらに歩み寄る。大声で助けをもとめるとかするべきだったのかもしれないけど、そんな余裕があるはずもなかった。だんだんと、間合いが詰められていく。そのぶん視界もクリアになって、目に入ってきた光景にわたしは吐きそうになった。
「ねえ」
もうセックスってしてるの、とその変態露出狂男は聞いてきたのである。なぜかすごく頭にきて、でも頭はまっしろになるからなにも言い返せなくて、私はようやく軽くなったあしもとに感謝しつつ冴莉の手を引いた。
「びっくりしたね」
やみくもに走り続けてきた暗闇で、先に沈黙を破ったのはもちろん私だった。冴莉はかぶりを振って私の胸に凭れこむ。
「こわかった……ありがと憧子さん」
涙声で呟く冴莉の髪を指ですいた。
「もし露出魔に会ったら? そりゃ鼻で笑って『ちっさ』って吐き捨ててやんのよ」
「生徒の夜間外出について」のプリント片手にクラスメイトは笑うけど。
私の背中にくっつく冴莉からは、きのうの夜と同じ、ひだまりみたいな匂いがした。
[08/12/20]
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