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 愛は知りたいという欲求の末路らしい。よくわかんない。よくわかんないけど、この一文にどきっとしたことは確かだ。だってそれに出会った文庫本はまさに、憧子さんのことを少しでも多くわかりたいと思って買ったものだったから。
 わたしには、わたしたちにはとほうもなく遠い話だった。家族から夫から恩師から社会から、その他もろもろのしがらみから必死に逃避行を続けるふたりの女性。盲目的(?)で退廃的(?)で破滅型(?)で……たかが15年分のわたしの語彙ではとても表せない重厚さがある。チープな言葉をあえて使うと、おとなの世界ってやつだ。
 なにかに驚いてはっと息を呑む。あの瞬間の息苦しさをずっと感じながら読んだ。そういうふうに読まざるを得なかった。目を逸らす暇も顔をあげる余裕ももてない。次々に並べられる単語のめまぐるしさ狂おしさに圧倒されながら、わたしはいっきにページを手繰っていった。グランドフィナーレまで読みきると、脳に残ったのは心地よい疲れ。そして疑問。
 憧子さんはなにを思ってこの本を選んだのだろう。女性同士がひたすらに互いの肌を求め合う熱気のこもった描写に、どういう感想をもったのだろう。愛で貫かれたこの物語のどこかに、わたしを透かし見たのだろうか。だとしたらどこに?
 あなたのことを知りたいと思ったよ。だけど得られたものといえば新たな謎。それはつまりわたしが知らなかった憧子さんの部分だ。――思い知らされてしまう。他人の胸の内が予想出来っこないなんてことは九九よりも先に学んでいるのに、幼い頃からの教訓さえわたしは親友のため、ううん自分のために無視しようとしていたのだ。
 同じ本を読んだぐらいで、理解した気になるなんて甘いね。もう迂闊に手を出さずにいようと決めた。


「冴莉、おはよー」
「おはよ。憧子さんて読書家だよね」
「なに急に」
「どういう本が好き?」
「おもしろい本」


 あの言葉を真に受けるなら、愛って報われない。自分が彼女に対して抵抗なく愛という表現を使っていることに驚いたのは、眠たい午後の授業中だった。


[09/01/26]
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