a Straying girl
好きな人いないの? と、女子の会話では常套句であるその言葉を口にする度、一瞬胃がしめつけられるような気分になる。いないって言ってるじゃーん、今はアスカみたいな友達がいればそれでいいよう、といつも通りの言葉が返ってきて、嬉しいこと言ってくれるなーあたしが男だったら絶対アンタのこと好きになったよお、とあたしもいつも通りの笑いと両手を大きく広げるパフォーマンスを返す頃にはそんな気持ちはすっかり消えているのだけど、かわりに口の中は渇き、目にうつる世界は厚いガラスを隔てたように見えてくる。一体この現象は何なのだ、と訝り始めたのは一ヶ月まえ。
「あーあたしホント男に生まれるべきだったかも」
「えぇでもそしたらこうやって友達になれなかったじゃん」
「そっか。そっかそっかそっかあ」
「それに私アスカとなら女の子でも付き合えるよぉ」
「なに言ってんのシホ爆弾はつげーん! 危ない感じですかぁー」
「ちがう。ちがうって。たとえばのはなしたとえばの」
じゃあ付き合ってよ、と本気で言ったらこの子もみんなも挙って遠ざかっていってしまうのだろう。それに私も本気でこの子たちの中の誰かと付き合いたいなんて全く、これっぽっちも思わない。それはこの子たちだって同様で、例えば席替えのときは縦よりも横の並びを必死に目で追うし、ティーン誌のセックス相談のコーナーはほかのどの記事よりも真剣に読むし、林間学校の夜には部屋に男子を呼んで先生たちにこっぴどく叱られた。あなたたちぐらいの年ごろでは間違いが起きても不思議じゃないの、男の子っていうのは急にそういう気分になることだってあるんだから、分かるわね先生の言ってること。あたしたちは示しあわせたように俯きながら黙ってお説教を聞き、暗くした部屋に気まずい空気を持ち帰って、でも五分もしないうちにまた尽きることのない噂話で盛り上がった。
「アスカ、そろそろ帰ろー」
「駅前のジャンボ鯛焼き五人で買って分けっこしようって話してたんだけどどう?」
「いいじゃんいいじゃん。カップルみたいに一口ずつ回さない?」
「五人でカップルとかなにー!」
今日何回目か知れない笑いが上がる。女の子が好きだなんて一度でも思ったことはない。けれど今こうして道路の白線を平均台のようにして歩く「友達」の、制服のプリーツスカートから伸びる華奢な脚を見つめるあたしが抱えているのは絶対に、「友情」なんていうものからは程遠い感情なのだ。
[07/11/10]
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