少女水路
変身とか一皮向けたとか生まれかわったとか。ああ全部誇大広告だったんだなって思った。世界の見え方はそのままだし心境の変化もないし、あとに残ったのは腹痛くらい。結果的に私の初体験の相手となった男の子はいいひとだけど、行為自体には意味を見いだせなくてとても面倒だった。
そうやって拍子抜けしていた私に反しカオリの反応はごく大きなものだった。「どうだった?」を連呼し続けその答えも待たずに次から次へと質問を吹っかける。私が「説明できない」の一語でのみ対応し続けるとさすがに不満げな顔をしたけど、話題を最近できたカオリの彼に移すとたちまちゆるみきった笑顔を取り直した。
カオリの彼の新田君ははっきりいって印象の薄い男子である。女子からは友達どまりで恋愛対象外と見なされそうなノリで、つまりは色気がない。しかしカオリの評価は「素朴で可愛い人」らしい。二人が付き合うことになるまでの経緯は耳に胼胝ができるほど聞かされたけど、要約するとカオリが軽い気持ちで告白したら新田君も軽くOKした、という話。私は正直もっと年相応というか初々しい話が聞きたかったのだけど。
「素朴なのはもちろんいいんだけどさあ、なんっにもしてくれないんだよね」
新田君は見た目通り奥手らしい。私は本格的にカオリが新田君と一線を越えるにはどうしたらいいか意見を出しながらもその事実に心の奥ではほっと安心していた。
三本目のアイスを食べるか否か冷蔵庫の前で迷っているとカオリからメールが入った。「今から会える?」という文字に私はなぜか胸騒ぎを覚えぎゅっと目を閉じた。
先に用件聞いておきたいんだけど。電話を掛けてそう尋ねるとカオリは弾んだ声を返してきた。
「超夏休みって感じ。おととい家族いなかったから新田君家に呼んじゃった!」
満面の笑みで受話器に向かっているカオリの姿が鮮やかに脳裏に映し出される。と同時に私の世界は暗転した。
少しは風流さも感じていた蝉の鳴き声は最早騒音でしかない。目の前に広がる光景は濁った水に隔てられ、全身の皮膚に無数の針が刺さるような感覚に見舞われた。
自分自身のときはあれほど無感動だったのに。私はもうカオリと以前のように接することはできないだろう。機械の向こうでとめどなく続くカオリの話し声にも、間違いなく真新しい色が覗いている。
[08/04/22]
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