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君が呼んでくれるなら どんな言葉でも どんな思いでも 【 どこでもイアー 】 夢の中を漂っている最中、ぼそぼそと雛森が声が聞こえた気がして日番谷の意識は浮上した。 しかしぼんやりと薄めを開けて周囲を見渡しても雛森の姿はどこにもない。 空耳か、と日番谷はまた目を閉じて眠りの淵を探し始めた。 そこへ深く深く潜ろうとすると、またぼそぼそと雛森の声が聞こえて。 今度こそと目を開けたけれど、やはりそこに雛森の姿はなかった。 (何なんだ、いったい) 二度あることは三度あるという。もう一度同じことを繰り返す手間が惜しいばかりに日番谷は大きく伸びをして畳に投げ打っていた体を起こした。パキパキと骨がすれる音。随分と長く眠っていたらしい。 ふわりと一つ盛大に欠伸をして、障子を開けて縁側に出た。その際ちらりと見遣った柱時計の短針は五を刺していた。その割には暗くない、などと思ってしまうのは、意識が冬使用になっているからか。春が近くなりもう随分と日脚は延びたというのに。 とりあえずこれから十番隊の詰所に戻らなければならないのだろうけれど、日番谷はなんとなくそれとは全く逆の方向へと歩を進めた。 遅咲きの梅がぽつりぽつりと咲く枝を何とはなしに見ながら進んでいく。と、総隊長ご自慢の池の辺に雛森が佇んでぼんやりと空を見上げていた。 その口元が、小さく小さく動いて。 「シロちゃん」 今はもう呼ばれることのない名を、確かに雛森は呟いた。 冬獅郎がその呼び方をされるのが好いていないことを知っている桃は、昔を懐かしんでひっそりとその呼び名を口にしているのだと理解して、冬獅郎は苦く笑った。 別に、その呼び名が嫌いなわけではない。 雛森が呼ぶならきっとどんな呼び名でも嫌いになれない。 けれど『シロちゃん』とは日番谷の中で、雛森が幼馴染みの自分を呼ぶ時の名前なのだ。 対してい『日番谷君』はようやくそこから脱して一人の男として見てもらえたという証。 雛森はそうやって分けている気などさらさらないだろうけれど。 日番谷が雛森に望むのは幼馴染みでは決してないから、だから出来るならその呼び名は暫くの間は封印してほしいと思う。 「そうしてるとアホみたいだぞ」 華奢な背中に声をかけると、その肩がびくりと音を立てて跳ね上がった。おそるおそるといった様子で振り返るのに、いや実際アホか、と憎まれ口を叩いても雛森は応じない。それよりももっと気に掛かることがあったようで。 「き、聞いてた、今の」 「……あ?何か言ってたのか、お前」 返事を少し迷って、とぼけることにした。呼びたい名前を自分のために呼ばないでいてくれる雛森の為に、空耳として処理するするくらい朝飯前だ。 聞いてないならいいの、と雛森は安堵したように吐息した。 いつか、言えたらいいと思う。 どんな呼び方だって構わない。 お前が呼んでくれるなら、俺はいつだってその声を聞き逃さない。 |